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家のベランダからはいつも、遠くに大きな煙突が見える。
海と山に囲まれた街と言えど、家を囲むのは建物ばかり。 春夏秋冬、眺めるのは海でも山でもなく、あの煙突。 けれど私はこの煙突のある風景が、案外気に入っている。 夏の煙突は、湿度でその輪郭が甘い。霞んで、なお遠く見える。 早朝の煙突は、裏から赤い日を受けて影絵のようになる。 煙突も、刻々と姿を変えていく。 今日の煙突は、凍った空気の中でかつてないほどくっきり立っていた。 真冬の刺すような夕日が、白い煙を蜜色に照らす。 鈍い色の冬雲も、どこかあたたかく、柔らかく流れていった。 突っ立っている私に容赦なく吹き抜ける風。 急いで中に戻る。さすがに日暮れは寒すぎる。 窓の外に舞うぼたん雪を横目に、今日も春を待つ。
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